宇宙旅行日記 第1話
西暦2626年2月26日。
この日、僕は地球を旅立った。
『Engine start』
ロケットエンジンが始動。笛を吹くような音とともに、機体全体が小刻みに震える。
カウントダウン開始。15。14。
『Cource is clear』
胸がどきどきと高鳴る。これからどんな景色が待っているのだろう。
13。12。
『All system is ready. ――さぁ、カイト。聞こえるか?』
スピーカーを通して、地上管制室にいる友人から声が届く。きっと、彼の声を聞くのはこれが最後だろう。ここまで僕と一緒に歩んできてくれた。彼と一緒に歩けるのはここまでなのが、少し寂しい。
10。9。
「あぁ、聞こえるよ、レイジ。こっちも準備完了だ。」
『オーケー。みやげ話、待ってるからな』
「任せとけって」
8。7。エンジン点火。
そうだ。僕はたくさんの宇宙を旅して、たくさんの星を見て、それをみんなに聞かせてあげるんだ。
どんな星が見られるだろう。どんな人に出会えるだろう。……あぁ、でも。もう少しだけ、声を聞いていたい。
せめて出発までは――。
「あ、あのさ、」
『カイト!』
5。4。
「っ、なに?」
『――楽しんでこい!』
3。
あぁ、そうだな。そのために旅に出ると、僕は決めたんだ。
2。
「うん。行ってくる」
1。
瞬きを一回。小さな窓から見える、彼方の空に視線を移す。夢にまで見た景色。それが、もうすぐ本当に見ることができるんだ。
0。リフトオフ。
体の奥に響く凄まじい振動と、押しつけられるような負荷が掛かる。今まで味わったことのない感覚に、重力の鎖を引きちぎって空に昇る興奮に、思わず笑みが零れた。
あっという間に窓から大地が見えなくなり、代わりに白い雲が隣に並んで、しかしそれも束の間に追い越す。だんだんと空が薄暗くなってきて、エンジン音も聞こえなくなってきた。
そこはもう、宇宙空間だった。